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東京高等裁判所 昭和43年(ラ)120号 決定 1968年7月19日

抗告人 斎藤重雄

相手方 塚田栄一郎

主文

原決定を取消す。

相手方の本件増改築許可申立を却下する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、末尾添付の別紙記載のとおりである。

一、本件各資料により認定できる事実関係は原決定理由第二項1ないし4記載のとおりであり、相手方が本件申立によつて許可を求めようとする増改築計画の内容は原決定理由第一項記載のとおりであるから、それぞれここにこれらを引用する。

二、ところで、借地法第八条ノ二第二項には「増改築ヲ制限スル旨ノ借地条件ガ存スル場合ニ於テ」と規定されているけれども、必ずしも増改築制限の特約が有効に存在する場合に限る趣旨ではなく、右特約の存否に争いのある結果「当事者間ニ協議調ハザルトキ」にもまた右申立をすることが許されると解するのが相当である。何故ならば、たとえ右申立を受けた裁判所において右特約の存在を認め難いと判断する場合であつても、当事者間に右特約の存否に争があり、その結果協議がととのわない場合には、増改築を強行することもあるべく、ひいて右特約違反の有無をめぐり将来各般の紛争を生ずる虞あるべきことが容易に予想できるのみならず、かかる紛争にもとづく訴訟において右特約の存在を認定される場合にそなえて同条項の申立をすることができると解するのが、増改築制限の特約をめぐる紛争をあらかじめ防止調整しようとする同条項の立法趣旨に最も良く適合するからである。

しかし、更に進んで、右特約不存在につき当事者間に争いのない場合においても、増改築に関する紛争防止のため適切と認められるときは借地法第八条ノ二第二項の申立及び裁判が許されるべきであるとする見解は、同条項の前示立法趣旨をこえて同条項の適用を認めようとするものであつて、当裁判所の採らないところである。

三、本件についてこれを見るに、本件土地賃貸借契約に増改築制限の特約の不存在につき、当事者間に何ら争いのないこと一件記録に照らしまことに明白である。

そうであるとすれば、本件申立はこれを不適法として却下すべきものであつて、右申立を認容した原決定は取消を免れない。

四、ただし、相手方(本件許可申立人)は、たとえ本件申立が却下されても、増改築制限の特約がないこと前示のとおりである以上、普通建物所有を目的とする本件土地賃貸借契約の趣旨及び法令に反しないかぎり自由に本件建物の増改築を行うこと得べきは勿論であるのみならず、他方抗告人もまた右増改築の実施方法如何により旧建物が滅失したと認められる場合には借地法第七条所定の異議を述べる権利を有すること多言を要しない。

五、よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 岡部行男 川添利起 蕪山厳)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取り消す。

本件増改築許可申立を却下する。

手続費用は全部相手方の負担とする。

抗告の理由

一、(原決定)

相手方は、申立人に対し、東京地方裁判所に、増改築許可の申立をした(東京地方裁判所昭和四二年(借チ)第一〇五〇号)ところ、同裁判所は昭和四三年二月一二日付をもつて、この申立を認容し、増改築を許可する旨の決定をなし、その決定は同年二月一三日抗告人に送達された。

二、(原決定の不当性)

原決定は法令の解釈、適用を誤まつた違法があり、取り消されるべきである。

1 相手方は抗告人に対して、増改築許可を申立てたものであるところ、右申立事件について、借地法第八条ノ二第二項は、増改築制限の特約・増改築禁止、あるいは増改築につき地主(抗告人)の承諾を要する旨の特約の存在。

特約があるため、借地権者(相手方)から、増改築について地主(抗告人)の承諾を求めたのに対して、増改築計画が土地の利用上相当であるに拘らず、承諾が得られない。

という二つの要件を規定する。

然しながら、本件申立事件について、原決定の認めるごとく、抗告人、相手方間の賃貸借契約には、右要件に該当する増改築を制限する旨の借地条件は存在せず、且、承諾を拒絶した事実もない。

従つて、相手方の申立は不適法として、却下されなければならないに拘らず、原決定は、無用の紛争の原因を与えないためとし、法律の解釈を無視した便宜論をもつて、相手方の申立を許容した違法がある。

2 また、借地法第二条一項但書、五条および六条各一項は建物の朽廃をもつて、借地権の消滅事由とする。

而して、借地権は永久に存続する権利でないことは云うまでもない。

然るに、原決定の如く、増改築を無条件に許可するならば、建物の朽廃前、これを申立て許可を得ることによつて、前記条項は死文化し、建物朽廃による借地権の消滅はあり得ないことになる。

一箇の借地法の内部で相互に矛盾する規定はあり得るはずはなく、相手方の申立を許容した原決定は、この点でも不当である。

3 借地法第八条ノ二第六項は、増改築の許可の裁判をなすさい、特に必要がないと認める場合を除き、鑑定委員会の意見をきかなければならないと規定する。

そして、特に必要がない場合とは申立を不適法として却下する場合等が考慮され得るところであるが、本件のごとき、申立を許容すべきとき、即ち借地権の存続その他に、影響を及ぼすべき裁判をなすについては、当事者の利益の衡平を図るため、附随裁判の要否およびその内容につき、鑑定委員会の意見を聴取しなければならないと解すべきであり、原審手続はこれを欠くものであり、原決定は不当である。

4 本件増改築は原決定記載「申立の趣旨」において明らかなごとく、新築に近い大工事であり、更に、増改築許可申立書第七項記載のごとく、現存建物は契約締結時たる昭和二二年五月終戦後の物資不足時代に、間に合わせに築造されたもので、ルーフイング葺と云う構造でも判るごとく、朽廃ないし少くとも老朽に至つており、本件増改築は、規模、構造、建物命数等から考慮し、新築と同視すべきである。

従つて、現存建物の取毀しは、借地法第七条に云う「建物の滅失」に該当すると解すべきであるところ、同条によれば、斯る場合、抗告人は異議権を有するものである。

然るに、原決定は、本件において、無条件の増改築許可を与えている。

許可は承諾に代る裁判であるため、抗告人は最早異議権を行使し得る機会を失い、原決定は抗告人の異議権を奪つたものであり、借地法第七条に矛盾する結果を招来した。本件許可は全面的に右七条に抵触した違法な裁判である。

而して、非訟手続及び民事訴訟の差異については、現在、種々見解の対立のあるところであるが、本件増改築のごときは、借地法第七条の問題として、民事訴訟で争われるべきで、非訟手続で裁判さるべき範囲に属しないと解すべきである。

本件における現存建物は、前記のごとく、建築時期、資材、構造等の面から、朽廃若しくは、朽廃に比類する腐損を生じ、少なくとも、老朽化していることは明白である(原決定はこの点に事実誤認ないし、事実の認識に誤りがある)。

原決定はこれを無視して無条件の許可をなしたもので妥当でない。

建物が老朽化し、朽廃直前において、賃借人が現存建物を取壊し、建物を新築した場合、賃貸人において、適法な異議を述べたとき、現存建物が朽廃すべかりし時期に賃貸借は終了すると解すべきであり、一般の見解と思慮される。

従つて、本件のごとき現存建物の老朽化の度合が相当程度進行している場合には、抗告人において異議を述べれば、新築建物が存在するに拘らず、朽廃すべかりしときに賃貸借は終了すると解するのが正当である。

よつて、朽廃前の本件のごとき現存建物においては、増改築許可の申立は右事由によつて許容されるべきでないと解すべきであり、これを許容した原決定は事実誤認ないし法令解釈に誤りがある。

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